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心にナイフをしのばせて


心にナイフをしのばせて (文春文庫)心にナイフをしのばせて (文春文庫)


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心にナイフをしのばせて
奥野修司【著】
文藝春秋(文春文庫)刊
2009(平成21)年4月発行


1969(昭和44)年に起きた、川崎高校生猟奇殺人といふ事件を取材したノンフィクションであります。この事件は、1997(平成9)年に発生した「酒鬼薔薇」事件と情況が良く似てゐるといふことで注目されたのださうです。
奥野修司氏は被害者の母親に取材しますが、母親は事件の直後からの記憶が飛んでゐたのです。それを被害者の妹から教へられるまでは、何度も母親に取材しては記憶の飛んだところを聞き込んでゐたので、かなり遠回りをしてしまふのです。それで、妹への取材が中心になり、彼女のモノローグ形式でルポが進むのであります。

事件後の遺族は、からうじて崩壊を免れてゐる状態だつたといひます。会話も笑顔もなくなり、ただ同じ家で生活するだけの日々。口を開けば「あの事件」のことに触れるのが恐ろしかつたからです。父親が壊れることなく、何とか持ち堪へたのが一家を最悪から救つた要因だらうと妹は語ります。
殺人事件の被害者遺族は、時間とともに事件について向き合へるやうになつていくのか。悲しみや怒りは薄れていくのか。本書を読む限り、それはやはり無理なやうです。何十年経つても傷は癒えることはないのでせう。

一方で犯人の元少年は、その後名前を変へ社会復帰して弁護士になつたとか。しかし遺族に対する謝罪はつひになく、それどころか電話で被害者の母親に暴言を吐いたさうであります。
加害者は少年法に守られてゐる一方、被害者に対するケアは何もない。

「一人の命を奪った少年が、国家から無償の教育を受け、少年院を退院したあとも最高学府にはいって人もうらやむ弁護士になった。一方のわが子を奪われた母親は、今や年金でかろうじてその日暮らしをしている。にもかかわらず、弁護士になったAは慰謝料すら払わず、平然としているのだ。」(本書より)

肝心の被害者の人権が守られない国であることを露呈したこの事件。被害者遺族や関係者は、取材当初はおそらく「今さらほじくり返して欲しくない」と考へたでせう。しかし日本の法曹界を変へるきつかけとなつた本書が書かれ、多くの人の目に触れたといふ事実は、著者の執念の賜物ではないでせうか。

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日本語の作文技術


日本語の作文技術 (朝日文庫)日本語の作文技術 (朝日文庫)



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日本語の作文技術
本多勝一【著】
朝日新聞社(朝日文庫)刊
1982(昭和57)年1月発行


著者本人の言によると、本書は本多勝一氏の著書中、一番部数が出てゐる作品ださうです。
もつとも各講座やセミナアなどのテクストとして駆使されてゐるケースも多いので、純粋な読者はどれだけゐるか分かりません。本書に関しては、「副読本として読まされたが、内容に反感を抱いた」といつたやうな感想も多いからです。つまり本多氏とは思想的立場を異にする人々なので、さういふ意見が出るのは当然と申せませう。

しかし虚心に文章作法の手引きとして読むと、これほど分かりやすく役に立つ書物はさうありません。例へば名著の誉れ高い丸谷才一氏『文章読本』は、その作品自体は読者を酔はせる絶品でありますが、読者が実際の効果を得るには、かなりの努力が必要になる。何しろ「名文を読め」といふのが要諦で、あとはことごとく枝葉末節に過ぎない、迂遠な話だらうが何だらうが、秘訣はそれしかないと丸谷氏は諭すのであります。
ところが『日本語の作文技術』では、文字通り作文の技術(ビジネス書ふうに言へば「スキル」)を伝授します。それは、明日からでも早速使へるものであります。

本書は構成にも気が配られてゐます。多田道太郎氏の文章を引用しますと、
「小声で言っておくと、ごく忙しい目にあっている人は、全巻を通読しなくてもいい。第一章から第四章まで読めば、それだけで確実に、文章はよくなる。この本はそういうスゴイ本なのだ。」
即ち優先順位の高い順に頭から並んでゐるのであります。その伝でいくと、分かりやすい文章を書く鍵は、修飾する言葉とされる言葉の関係を明らかにすることらしい。つまり語順ですね。一例として、
「私は小林が中村が鈴木が死んだ現場にいたと証言したのかと思った。」
といふ悪文の典型のやうな例文を提示します。この文章は根本からをかしいけれど、まづ修飾と非修飾の関係をはつきりさせるだけで、かなり改善されます。即ち、
「鈴木が死んだ現場に中村がいたと小林が証言したのかと私は思った。」

次の章では句読点を論じます。正しくテンとマルを駆使できてゐない文章が多いからです。正しい位置にテンがないと、分かりにくいだけではなく、場合によつては真逆の意味になることがある。これも様様な文例を示して解説します。以上で第四章までが終りです。
つまり、修飾の関係と句読点で、相当の技術が使はれてゐるといふのであります。これを読んで以降、私もテンを使ふ時は、本当にそれが必要なのかどうか考へるやうになりました。それにしてはヘボい文章ですが。

巻末付録の「メモから原稿まで」は、取材メモの取り方やまとめ方、さらに原稿の書き方が説明されてゐます。第一線で活躍し続けた著者の舞台裏を披露してゐて、まことに参考になります。現在は原稿用紙ではなくPCに向かふのが一般的かもしれませんが、考へ方は敷衍することが出来ませう。
喰はず嫌ひをせずに、読んでみては如何ですかな。

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雑学のすすめ


雑学のすすめ (講談社文庫)雑学のすすめ (講談社文庫)



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雑学のすすめ
清水義範(文)/西原理恵子(絵)【著】
講談社(講談社文庫)刊
2010(平成22)年5月発行


雑学は面白い。これはたぶん実生活に役に立たないほど面白いと思はれます。
チップの発祥がロンドンのコーヒー店で、他の客よりも早く出して貰ひたい客の追加料金(to insure promptnessの頭文字でチップださうな)であつたなどと知つても、今後の人生に何ら影響は無いでありませう。
ソクラテスの女房が悪妻の代名詞となつてゐるのですが、どうもあまり根拠のない話らしい。ソクラテスの息子が自分の母(つまりソクラテスの妻)を悪し様にいふのを、野獣よりましだらう、などとたしなめてゐる場面から不当に悪評が広まつたさうです。
イキナリ別の本の話をしますが、三浦一郎著『世界史こぼれ話』によると、ソクラテスは若い者たちに妻帯を勧め、「良妻は最高だし、悪妻だと哲学者になれるよ」などと言つたらしい。
夏目漱石は癇癪持ちで、何かと妻に当りました。「子供をたくさん産む女は下等だ」などと毒づいてゐたら、それを耳にした編集者に「それは、あなたも悪い」と指摘され、さすがに笑つたとか。

『雑学のすすめ』は、『おもしろくても理科』以来続く清水博士と西原画伯のコンビであります。今回は肩の力を抜いた雑学がテーマなので、清水氏の文章は自在に話から話へ飛び、西原さんのカットもいつもより攻撃性が薄れてゐます。(『いやでも楽しめる算数』の時は罵詈雑言、早く連載終れの大合唱で、さすがに清水氏がかはいさうになりました。)
ゆゑに、机に向つて鹿爪らしい顔で読んではつまらないでせう。頭から読む必要もなく、目次を眺めながら興味のあるところから読んでいくのが良いでせうね。講談社文庫新刊。

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土俵の鬼 三代


 

土俵の鬼 三代
杉山邦博【著】
講談社(講談社文庫)刊
1992(平成4)年5月発行


なかなか多忙にて、相撲のテレビ観戦もあまり出来ません。
それにしても、つまらないのであります。優勝争ひの興味は中盤ですでに失せてしまひました。白鵬は立派ですが、2番手以降との力の差が縮まるどころか拡大してゐます。豪栄道や琴奨菊、稀勢の里らにはもう期待は持てさうもありません。ああ。

今場所も土俵下から熱心に勝負を見守る杉山邦博さんの姿があります。現状をどのやうに思つてゐるのか。
『土俵の鬼 三代』とは、先先代二子山親方(元横綱・初代若乃花幹士)・先代二子山親方(元大関貴ノ花)・横綱若乃花勝と貴乃花光司兄弟のことであります。
初代若乃花は「土俵には黄金が埋つてゐる」などと語り弟子たちを育て、名横綱兼名伯楽と評判。貴ノ花は「水泳ではメシは喰へぬ」などとつぶやきながら角界入りし、大鵬時代と千代の富士時代の間、長きに渡り人気の面で相撲界を支へました。若貴兄弟については、まだ記憶に新しいところであります。兄貴の方は相撲界を去つてしまひましたが。
杉山さんは有名な貴ノ花ファンなので、礼賛調であります。朝青龍を語る杉山氏とはまるで別人なのです。

Ⅱ章以降は、執筆当時の人気力士論やアナウンサーとしての苦労話など。「本物を見分ける目」の章などは、同業を目指す人たちにとつては今でも参考になる話ではありますまいか。色見本カードを常に携帯してゐた話とか、人と同じことをしてゐては駄目であるといふことでせうね。
本書で語られた力士たちに続く後輩は、果たして出てくるのか。一度伝統がぷつつり切れると、復活するのは難しい。かつて名力士だつた現在の親方たちには、さういふ伝統を伝へる責任もあるのではないでせうか。そんなことを考へる一冊であります。しかし新品はもう入手出来ないかな...

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中国てなもんや商社


中国てなもんや商社 (文春文庫)中国てなもんや商社 (文春文庫)



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中国てなもんや商社
谷崎光【著】
文藝春秋(文春文庫)刊
1999(平成11)年12月発行


著者は大学卒業後、成り行きで大阪の貿易会社に就職したのですが、そこは中国を相手に商売する商社でした。
入社初日から怒号飛び交ふ職場に圧倒される谷崎光さん。
中国から商品が納入されないので現地に問ひ合はせると、竜巻で工場が飛ばされたからもう作れない、などと平然として言ふ。Tシャツを一着手に取ると、二着・三着とくつついてゐる。まともなのが見つかつたと思へば、首が入らない。
彼ら(中国人)は、しかし決して謝らない。社員の言によると、「まず日本側の手落ちを探す、どうしてもないと、天変地異か不可抗力」なのださうです。

王課長といふ華僑が上司で、これが中中の人物。中国人だから、中国側の言ひ分に対しては冷静で、日本人みたいに怒つたりはしないのです。しかし日本の会社で働く身ですから、中国人の好い加減な仕事には妥協せず、会社の業績には大いに貢献します。彼の行く部門は、どこでも売上を倍増させるさうです。谷崎さんはこの王課長に一から仕込まれ、逞しく成長していくのです。

何を言つても暖簾に腕押し、ああ言へばかう言ふの中国人に対し、最初は怒りまくりだつたのが、次第に達観の域に。普通なら「もう中国はイヤダ!」となるところですが、彼女はしたたかに笑ひに変へてしまひます。かういふポジチブな姿勢は良いやね。モノカキを目指して会社は辞めたさうですが、本書を読めば自信過剰ではないことが分かるでせう。
なほ、本書の内容はもう20年くらゐ前になるので、その辺を考慮してお読みください。

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「時刻表」舞台裏の職人たち


「時刻表」舞台裏の職人たち (マイロネBOOKS)「時刻表」舞台裏の職人たち (マイロネBOOKS)



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時刻表舞台裏の職人たち
時刻表OB会【編】
JTB(マイロネBOOKS)刊
2002(平成14)年10月発行


JTBが毎月出してゐる「時刻表」の舞台裏を紹介します。マイロネBOOKSもJTBなので宣伝臭が漂ひますが、まあひとつの読み物として興味深い内容ではあります。
第1章に種村直樹氏のルポ「時刻表を作る顔」が再録されてゐます。さすがに脂ののつてゐる頃の文章で、「春臨」と呼はれる春休み向けの臨時列車が収録される2月号(1982年)が、どのような過程で作られていくのか、臨場感たつぷりに綴られてゐます。

第2章の「活字の時代」を経て、第3章「電算写植の時代」、そして第4章「21世紀の時刻表」ではSTEP(System of Time date Editting & Producting)と呼ばれる新システムの紹介がされてゐます。良く分かりませんが、
①駅時刻データシステム(時刻情報の根幹)
②ページレイアウトシステム(時刻データを時刻表に表現する)
③DTPシステム(駅時刻とページレイアウトを参照し、実際に時刻表誌面を編集する)
が、STEPの基本設計ださうです。ふうん。
第5章「時刻表編集作業のあれこれ」では、文字通り編集作業の苦労話あれこれです。特に会社線の編集は大変です。あれは見ているだけでも毎月の更新が難儀さうであります。それも900社もあるさうですから、スペースの配分とかも力量が問はれるところ。
第6章ではJTB時刻表の歴史をさらりと述べてゐます。昔の時刻表は面白い。実は私は復刻版も全部持つてゐて、しばしば眺めて愉しんでゐます。あれは時間を忘れてしまふのでいけません。

結論としては、やはり時刻表は面白い、といふことですな...
賛同しない人も多いでせうが。ではご無礼します。

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小川未明童話集 赤いろうそくと人魚


小川未明童話集 (新潮文庫)小川未明童話集 (新潮文庫)



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小川未明童話集 赤いろうそくと人魚
小川未明【著】
新潮社(新潮文庫)刊
1951(昭和26)年11月発行
2003(平成15)年 5月改版


小川未明であります。我我が思ひ浮かべる童話とはいささか趣きが違ふのであります。
勧善懲悪とは無縁であり、従つて教訓的ではなく、寓意もあまり感じられません。
個人的に感じるのは、人間は何と手前勝手で他愛無い存在でありませうかといふことです。未明童話では人間は何だかどうしやうもない役回りが多く、動物や植物、時には無機質の物体が感情豊かに自己主張するのでした。

「飴チョコの天使」といふ作品があります。飴チョコの箱に描かれた天使の絵の話です。これらの天使はそれぞれの運命に従ひ、破つて捨てられたり、燃やされたり、泥濘の道に捨てられ荷車の轍に轢かれたりするのです。東京から田舎の店先で1年間売れなかつた3個の飴チョコは、東京の孫に送るからとお婆さんに買はれ、東京に戻ることになりました。さて、それから...
商品の箱や袋に描かれてゐる人物などが気になることはありませんか? 唐突ですが、私は「たわしの革命児」キクロンの袋に描かれてゐる女の人がとても気になります。彼女はキクロンを手にしてゐますが、そのキクロンにも同じ女性がやはりキクロンを手に持つて...といふエンドレスになつてゐます。そんな私にとつて「飴チョコの天使」は、まことに心にフィットする物語でした。
それから「負傷した線路と月」。おほげさに言へば、この小編はこの世そのものを活写してゐます。まことにドラマチックで、愛情に飢ゑた人が読むとすすり泣くのではないか。「二度と通らない旅人」も私好みであります。

表題作「赤いろうそくと人魚」や「野ばら」、「金の輪」などは割と有名で語られる事も多いのですが、それ以外の作品も佳品揃ひと申せませう。ぜひ読んでくださいな。
では、おやすみなさい。

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オーケストラ楽器別人間学


オーケストラ楽器別人間学 (新潮文庫)オーケストラ楽器別人間学 (新潮文庫)



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オーケストラ楽器別人間学
茂木大輔【著】
新潮社(新潮文庫)刊
2002(平成14)8月発行


もつと学術的な内容かと思つてゐましたが(笑)。
タイトル通り、楽器とそれを演奏する人物の相関関係を探る書物であります。

「先天的にそーゆー性格の人間がそういう楽器を選択する、という一面と、その楽器に長くふれていると後天的にその楽器にマッチした性格が形成されてくる、という二つの面がある。これを楽器選択運命論、楽器別人格形成論と仮に名づけよう」

といふ訳で、第1章「楽器選択運命論」 どのやうな人がその楽器を選ぶのか。例へばフルート奏者は北国出身、親は銀行員か公認会計士、趣味は時計の分解修理と原書の翻訳、天秤座、B型、酉年など。具体的な奏者の名前が茂木氏の脳内にあるのでせう。それぞれの楽器に対する世間のイメエヂと併せて、強引に性格付けをします。読者は、そんな馬鹿なと言ひながらも読ませられてしまふのです。
第2章は「楽器別人格形成論」 その楽器を演奏する人はいかなる性格になるのか。これまたオーケストラの各楽器毎に、ごていねいにも「音色」「演奏感覚」「合奏機能」の3点から論ずるのであります。ここまで立派に冗談的分析をするのは若干偏執狂めいてきますね。確かにうなづける部分も多いのだけれど、実際のオケマンが読めば、更に実感的に「さうさう」と納得し爆笑するのでせう。ちよつと徹底しすぎて、私程度の知識の者が読むと、少しついていけない部分もあると告白しませうか。
第3章「楽隊社会応用学」...有名人のあの人だつたら、どんな楽器がふさわしいのかを論じてゐます。とりあげる人物は芸能人が多いですが、デューク・トウゴウ(ゴルゴ13)や山岡士郎(美味しんぼ)など架空のキャラクタアも登場します。完全に遊んでゐますね。
第4章「フィールドワーク楽隊編」の「楽器別機能データファイル」を読むに至つて、茂木さんは本来音楽家よりもつと向いてゐる職業があつたのではないかと夢想しました。いや、これは良い意味で。唐突ですが、映像監督の河崎実氏の著書『ウルトラマンはなぜシュワッチと叫ぶのか?』といふ怪作を思ひ出します。「ウルトラマン四十八声」と題する研究は馬鹿馬鹿しさを通り越して感動する程ですが、それに通づる論文であります。
私が実際に楽器を演奏する人物ならば、本書の内容はより興趣が高まつたでありませう。

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黒の試走車


黒の試走車 (角川文庫―リバイバルコレクションエンタテインメントベスト20)黒の試走車 (角川文庫)



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黒の試走車
梶山季之【著】
角川書店(角川文庫)刊
1997(平成9)年1月発行


超超超流行作家だつた梶山季之。1975年、45歳の若さで取材先の香港で客死してから早くも35年であります。時蠅矢を好む。
大映東京制作の映画『黒の試走車』を久久に見て、原作もまた久しぶりに読んでみました。痛快巨編。

タイガー自動車が売り出した新車の「パイオニア・デラックス」が、故障で踏切事故を起しました。運転手はベテランで、操作ミスは考へにくいのです。そしてこの事故を調査中のタイガー自動車・柴山課長は謎の事故死をとげる! 陰謀の臭ひがプンプンとしますよ...

トップ屋の元祖と呼ばれる梶山氏は、取材には絶対の自信を持つてゐると語つてゐました。ある人に「小説に書かれたやうなことが、実際にライバル企業の間で行はれてゐるのか」と訊かれて、彼は「実際には、小説以上のことが行はれてゐますよ...」と答へたさうです。
サービス精神が旺盛な梶山氏は、後年ポルノ作家とまで言はれるやうになりましたが(それはそれで、痛快娯楽小説として価値はあるのですが)、初期は硬派の企業小説を書いてゐました。今回知つたのですが、『黒の試走車』は何と岩波書店から再刊されてゐるのですね。仰天したのであります。
現在読むと、時代背景には違和感を感じるかもしれませんが、小説としての面白さは不変であることを再認識した次第であります。

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騙し絵日本国憲法


騙し絵 日本国憲法 (集英社文庫)騙し絵 日本国憲法 (集英社文庫)



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騙し絵 日本国憲法
清水義範【著】
集英社(集英社文庫)刊
1999(平成11)年4月発行


憲法記念日にかこつけて、こんな本を取上げます。
もちろん清水義範氏でありますから、七面倒な憲法の理論や理念を語るわけではありません。しつかりと日本国憲法のパスティーシュもあります。

「二十一の異なるバージョンによる前文」では、文字通り様々なパスティーシュが現れます。すべての元ネタが分かれば申し分ないのですが、無知な私には分からないものがあって、まことに残念であります。
長嶋茂雄・大江健三郎・名古屋弁・白波五人男・取扱説明書・谷崎文章読本(「憲法に実用的と芸術的の区別はない」には笑つた)・フィネガンズウェイク・東海林さだお・サラダ記念日・折々のうた・ソクラテスの弁明などが次々と登場します。「裏見酒乱」では、「おもいだしまんが 憲法とわたくし」と題して西原理恵子さんのマンガが突如出現して吃驚します。「くそっ、テーマにむりがないか」などと毒づきます。

第一章「シンボル」から第三章「ハロランさんと基本的人権」までは、日常のパスティーシュ小説でありますが、柏木誠治と違ひ色色とドラマティックな出来事が起こります。登場人物たちは天皇や憲法、人権などについて、否応なく考へざるを得ない立場であります。時に理屈つぽく、若干説教臭かつたりしますが、それはこの作者独特のものなのです。
第四章-第八章は寄席のパスティーシュ、第九章・第十章は再び小説の「亜匍驢団の掟」となります。この小説の最後に「大矛盾」が紹介されてゐます。憲法九十六条で、憲法改正は議員の三分の二以上の賛成が必要といひながら、第九十九章では国会議員は憲法を尊重し擁護する義務を負ふとなつてゐることであります。確か佐高信氏が次のやうに述べてゐました。ここで国民ではなくわざわざ国会議員(正確には「天皇又は摂政及び国務大臣、国会議員、裁判官その他の公務員」)となつてゐるのは、憲法をいぢくりさうな心配があるのがこれらの人々だからであると。

巻末には付録として日本国憲法がついてゐます。親切であります。
憲法記念日といつても、せつかくの黄金週間に難しいこと考へたくないよ、といふ人でも面白くあつといふ間に読めるのであります。ではさようなら。

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太陽のない街


太陽のない街太陽のない街



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太陽のない
徳永直【著】
主婦の友社刊
2008(平成20)年10月発行


柳瀬正夢のカバー絵です。この絵は学生の頃、教科書で見た記憶があるのですよ。
絵の男はハンマーを担いで、一体何をする心算なのか。全身から怒りが伝はりますが、男の表情からは何ともいへぬ哀しさが見えます。とにかく印象に残るカバー絵であります。
ごく最近、古本屋にて本書を発見し、教科書以来の出会ひを果たしたのであります。主婦の友社から復刊してゐるとは知りませんでした。しかも文庫本ですよ。即購買したのであります。プロレタリア文学といふことで、本日のメーデーに合はせた訳ではございません。

『太陽のない街』は、1926年の「共同印刷争議」を小説化したもの。作中では「大同印刷」となつてゐます。
会社側が労働者をリストラしたことを発端に起きたストライキであります。リストラの目的が労働組合の無力化にあつたことが明明白白なのでした。
最下層の人々が蠢くやうに生活してゐる「谷底の街」、即ち「太陽のない街」だといふのです。そこで生活する高枝・加世の姉妹を中心に争議の様子を活写してゐます。当時は思想的な制約が多いので(命がけ)伏字が多いのですが、それでも自ら絶版にせざるを得ませんでした。

人物が十分に描かれてゐないなどの評も聞かれますが、本作の目的を考へればその問題は小さいでせう。おそらく作者はノンフィクションとして書きたかつたのではないでせうか。時局柄それが許されず、小説といふ形をとつたのだらうと想像してゐます。ま、この想像は外れてゐるかも知れませんが。

『蟹工船』を読んだ皆様には、こちらも読んでみてくださいと申し上げます。

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