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家族八景


家族八景 (新潮文庫)家族八景 (新潮文庫)



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家族八景
筒井康隆【著】
新潮社(新潮文庫)刊
1975(昭和50)年2月発行
2002(平成14)年2月改版


主人公の火田七瀬は精神感応能力者、即ち人の心を読み取る能力を有する女性です。
その能力を人に悟られぬため、同じ職場に長く勤められず、職場を転転としても不自然ではないお手伝ひさんをしてゐるのです。
「無風地帯」から「亡母渇仰」まで8篇の短篇からなる連作集で、それぞれの家族の内実が七瀬の心によつて暴露されます。えげつない。

七瀬が住込みで働く家庭は、表面上はおほむね良い家庭と周囲に思はれてゐるところであります。中には「亡母渇仰」の清水家のやうに嘲笑を浴びてゐる家もありますが、ま、外面を飾ることで内情を隠蔽することに成功してゐると言へませう。
ところが七瀬がその家に入ると、隠し事はすべて明るみに出てしまふのであります。どこの家庭も、嫌な奴か悪い奴ばかりです。「日曜画家」の竹村天洲は例外かと思はれましたが、やはり正体は欲望の塊のやうな人物でした。
これらの家族、八景とも特別な悪人を描いてゐるのかと問へば、おそらくさうではありますまい。いかにも、どこかにありさうな家族ばかりなのです。自分を振り返つてみますと、我が家は全く違ふぜ、と言ひきれるかどうか。私も内心では、他人に知られると恥づかしくて死にたくなるやうなことを考へることもあるのです。

人の心を読むことができるといふことは、恐らく悲しいことでせう。その能力を知られまいとするために、七瀬も「水蜜桃」では主を発狂させ、「亡母渇仰」では棺で生き返つた女性を見殺しにしました。これはやむを得ないのでせう。一度その事実が広まつたら最後、ちばあきおの『ふしぎトーボくん』みたいになつてしまふでせう。(これは悲しい漫画ですよ。)
フィクションで良かつた、と安堵するところですが、一方で「ひよつとしたらどこかにテレパスが...」と一瞬不安がよぎる恐ろしい読み物と申せませう。

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