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妖かし大蔵新東宝


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妖かし大蔵新東宝
那智史郎/繁田俊幸【編】
ワイズ出版刊
2001(平成13)年5月発行


戦後間もなく勃発した「東宝争議」。その結果、東宝から新東宝が分離独立しました。1947(昭和22)年のことであります。しかし如何せん経営母体が弱体であり、設立当初の理念を実現する映画制作が出来ません。主要スタアや監督たちは、東宝に戻つたりフリーになつたりで、次々と新東宝を去つてしまひます。
市川崑・成瀬巳喜男・溝口健二・五所平之助といつた名匠が佳作を撮りますが、経営の悪化には歯止めがかからず、再建のため、かつて日活の経営陣の一人だつた大蔵貢を社長に招聘するのです。
本書のタイトル『妖かし大蔵新東宝』の大蔵とは、この人を指します。

新東宝といへば「エログロナンセンス」が対句のやうに語られるのでありますが、それはこの「大蔵時代」に次々と粗製濫造された作品群であります。
「大衆の欲望に忠実たれ」と、芸術的作品を封印し、アクション・お色気・ホラー・コメディなど、良識派が眉をひそめる娯楽作品を連打します。
タイトルからして扇情的なものが多く、この点でも邦画他社と一線を画してゐます。試しにいくつかのタイトルを列挙してみませう。
「女真珠王の復讐」「絶海の裸女」「肉体女優殺し五人の犯罪者」「女体桟橋」「人喰海女」「汚れた肉体聖女」「九十九本目の生娘」「生首奉行と鬼大名」「少女妻恐るべき十六歳」...これらはほんの一部なのですが、なりふり構はず観客を集めやうとの意図がはつきりしてゐますね。

その大蔵体制も、放漫経営がたたり行き詰まります。そして1961(昭和36)年、つひに新東宝は終焉を迎へるのであります。本来ならかういふ映画群は歴史に残ることもなく忘れ去られる筈ですが、妙に根強い人気があるやうで、かういふ文献が平成になつてからも出版されるのはその証拠の一つでせう。何しろ新東宝崩壊後に生れた私みたいな者が夢中になつてゐのですからなあ。
そしてゲテモノ好きの皆様にもお勧めするしだいであります。あとがきにもかう書いてあります。
「本書を手にして「新東宝映画を観たい!」という衝動に駆られた読者の皆さん、あなたも我ら同様まんまと大蔵社長と新東宝宣伝部の妖かしの術中にはまってしまったのです」

さあ皆で新東宝映画を観て嗤ひ、いや笑ひませう。今ではかなりのタイトルがDVDソフト化されてゐますし、「チャンネルNECO」などでは毎月何らかの新東宝映画を放映してゐます。ちなみに8月は「女王蜂と大学の竜」「黄線地帯(イエローライン)」。いづれも傑作であります。
仲間が増えることを期待して、今日はここでお別れします。では。

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