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相撲部屋のおかみさん


 
相撲部屋のおかみさん
北出清五郎【著】
講談社(講談社文庫)刊
1993(平成5)年1月発行


白鵬関の連勝は止まりましたが、63連勝は相撲史に残る記録となりました。
双葉山関がかつて69連勝でストップしたときは、未だ木の鶏になれないなあ、などとつぶやき、心乱れて3連敗したのであります。
それに比べて白鵬関は連敗することなく、再び連勝街道を走らんとしてゐます。なかなかのものである。
連勝を止めたのが万年大関候補の稀勢の里。いつもこんな相撲を取ればいいのに。
北出清五郎さんが健在ならば、さぞかし辛口のコメントを連発したことでせう(氏はアナウンサーながら、向正面解説をすることもあつた)。

『相撲部屋のおかみさん』は、その北出清五郎さんが親方のおかみさん12人にインタビューした読み物であります。相撲を熟知してゐる氏ならではの質問なので、おかみさんたちも本音をもらし、生生しい言葉も引き出してゐます。

出羽海(佐田の山)夫人:自分の息子のことを「この子はタオルも絞れないのですよ」と平気で言ひながら相撲部屋に預ける親が増えてゐると語ります。しつけが面倒だから相撲部屋に預けちやへ、とでも考へてゐるのでせうか。
時津風(豊山)夫人:部屋に洗濯機を入れるかどうかで悩む。洗濯番が嫌なら強くなれ、といふのが基本の相撲界ですが、時代の波には抗へないのでした。
春日野(栃ノ海)夫人:元宝塚スタアの夫人は、男世界と女世界の違ひだけで、相撲界と宝塚は同じやうな世界であると言ひます。
大鵬夫人:親方の脳梗塞からの復帰を献身的に支へました。今、世の中はラクな方向に向かつてゐると指摘します。
佐渡ヶ嶽(琴桜)夫人:珍しく稽古場にも座るおかみさん。普通の相撲部屋では親方が「女のゐる場所ぢやない」と禁ずることが多いさうですが、元琴桜はこだはらないとか。
高砂(富士錦)夫人:大関時代の小錦関は、負けて帰つてくると、部屋で電気を消して泣いてゐたさうです。こちらまで切なくなるエピソオドだ。
北の湖夫人:親方が理事長の頃、私も世論と一緒になり親方を批判してゐましたが、夫人の話を聞くと、少し反省しました。
大島(旭国)夫人:若いお相撲さんは負けて廃業する人は少ないとか。最後の場所を勝ち越して「相撲界で通用した俺はどこの世界でもイケルぜ」といふ自信をつけたいのではないかといふ分析です。それなら辞めるなよと言ひたいが。
東関(高見山)夫人:相撲取りの理想的な太り方について、改めて考へる。そもそもハワイ勢は太りやすいのでせうか。
武蔵川(三重ノ海)夫人:武蔵丸は母親に「マル」と呼ばれてゐました。それで武蔵丸となつたと思はれてゐますが、これは偶然ださうです。四股名を付けた後に「マル」と呼ばれてゐたことが分かつたのです。それにしても武蔵丸関はとことん良い奴だなあ。
九重(千代の富士)夫人:結婚して弱くなつたら、おかみさんの責任と呼ばれるのが通例であります。横綱千代の富士は、夫人がさう言はれてはいけないと思ひ、死に物狂ひで努力した。優しい親方とおかみさんです。
ニ子山(若乃花)夫人:力士の収入が歩合制だつた頃の苦労を語ります。弱小部屋だつた時代は、地方巡業の金策もままならず、質屋へ入れたり出したりでやりくりしたさうです。月給制に変つた時は本当に安心したことでせう。

つくづく相撲部屋のおかみさんといふのは精神的肉体的に疲弊するものだと思ひます。男社会の伝統の中で、愚痴ることもなく淡々と部屋を切り盛りする姿は、文字通り縁の下のなにがしであります。北出清五郎さんの話の引き出し方もうまい。好著。

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