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監督


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海老沢泰久【著】
文藝春秋(文春文庫)刊
1995(平成7)年1月発行


59歳の若さで亡くなられた海老沢泰久さん。
かういふ文章を書ける人がゐなくなるのは、まことに寂しく勿体ないことであります。
如何なる文章かといふと、難しい言葉や言ひ回しを使はず、しかしとても入組んだ複雑な内容を読者に伝へます。逆の文章を書く人は結構ゐるやうですが。即ちいたづらに難解な言葉を用ゐ、無意味なレトリックを連発し、そして肝心の内容は空疎で冷え冷えとしてゐるといふ文章。
かういふ文章に付合はされるのは時間の無駄ですねえ...

本書『監督』は、元ヤクルト・スワローズ監督の広岡達朗さんをモデルにした小説であります。主人公の姓も広岡ですが、人物も物語も完全にフィクションなのです。
冒頭にも、かうあります。
「この物語の登場人物および組織はすべて架空であり、現存する、あるいは過去のいかなる実在人物および実在組織に似ていようとも、それはまったくの偶然である」
ここまでしやあしやあと語られると、却つて爽快でさへあります。何しろ、エンゼルス(スワローズ)以外のチームでは、選手はすべて実名なのだから。例へば長嶋や王といふ人物が出てきますが、実際に長嶋さん王さんがゐるのはそれは偶然だといふ訳でせう。

広岡は「ドンケツ・エンゼルス」と揶揄されるほど弱いチームの監督に就任します。チームの状態は最悪で、コーチ以下選手は皆だらけきつてゐました。元凶は高柳といふ古参コーチで、選手の我儘を許し放題にし、それを良い雰囲気の家族的なチームと勘違ひしてゐたのであります。
広岡は我慢するべき時はぐつと我慢しながら、行動を起すべき場所では時期を過たずにチームの改革を推し進めるのでした。そしてチームは結果を出し始め、常勝ジャイアンツに肉薄してゆく...

私は30年来の燕党ですから、主要人物のモデルは誰か、おほよその見当はつきますが、ちよつと分からない人物もゐます。大滝は松岡でせうね。高原は若松以外に考へられぬし、市川は大矢かな。
ハドソンはマニエルと思はれるが、ヘミングウェイは完全な独創ですね。武富は良く分かりません。名前は武上+福富ですが、この2人ではありますまい。大杉でもなささうだし。
と、私は余計な事を考へながら読んでゐましたので、あまり良い読み方ではありませんね。むしろ予備知識のない人が読むと、純粋に野球小説としてその感動を得られるでせう。

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