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宮脇俊三【著】
河出書房新社刊
2009(平成21)年9月発行


作家が亡くなつた後に、未発表の原稿をかき集めて出版し、「ファン垂涎の書」などと煽る商法はあまり好まないところであります。人気ミュージシャンもその死後に「未発表テイク」などをCDにして発売されたりする。ファンの足許に付け込むやうな商売ですねえ。
さういふ思ひでゐたので、昨年に宮脇俊三さんの『「最長片道切符の旅」取材ノート』が出た時にも、「きつと宮脇氏は草葉の陰から、苦言を呈してゐることだらう」と苦苦しく感じ、しかし購買してしまひました。版元はファンのかかる所業を容易に予測してゐたのだらうと思ふと、まんまと商策に乗つた自分が阿呆に感じられます。ま、構はないけど。

しかし本書が成立した事情は若干違ふやうです。
まづ、全編が単行本未収録であるといふことであります。そして執筆時期が、一番脂の乗つた「全盛期」にあたることもポイントが高い。つまり落穂拾ひとは一味も二味も違ふ。なぜ今まで書籍化されなかつたのか不思議なくらゐです。
一番印象に残つたのは、鉄道とは全く関係ない部分でした。「あとがき」で宮脇灯子さんも指摘してゐますが、13歳頃に突然性格が変つたといふところであります。
それまでは授業中に当てられたり、先生と直接話したりするだけで上の空になるほどのアガリ症であつたと。テニスでも弱くは無いのに、いざ試合になるとアガつてしまひ、普段の力が出ないといふことでした。
それが突然、何のきつかけもなく、図々しい、冷やかな性格に変つたさうです。テニスでは逆に実力以上の成績を収めるやうになつたとか。「それ以前の自分は何だったのか、どこへ行ってしまったのかと思う」と述べてゐます。不思議な事もあるものです。

かういふ風に、没後6年も経つてから、宮脇氏の未読の文章を読めるとは、感慨深いものがあります。読者としての幸福感を存分に味ははせてくれた本書に関つた人たちに感謝したいと思ひました。

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