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梅雨将軍信長


梅雨将軍信長

梅雨将軍信長
新田次郎【著】
新潮社(新潮文庫)刊
1979(昭和54)年11月発行


織田信長が桶狭間の合戦で今川義元を倒したのも、長篠の合戦で武田勝頼に勝利したのも、梅雨を味方にした(つまり天候を利用して)結果であるといふのです。
それを可能にしたのは、信長のところに寄寓してゐた平手左京亮といふ男の天気予報でした。
この平手左京亮、軍師ではないのですが、策戦会議には必ず参加し、その発言は皆から一目置かれてゐたやうです。彼は小鼓を打つことで気(大気)をうかがひ、天候を読んでゐたのです。
信長が雨によつて運気を動かしてゐると見抜き、実に的確な策を具申したのでした。
そして本能寺では、乾気によつて気が変る男が側臣にゐる筈である、と注意をしたのであります。
さう言はれて信長は明智光秀のことをちらりと考へたが、「まさか」と打ち消してしまひます。そして結果は周知の通り。
気候の面から信長の運気を解明するといふ、斬新な視点の「梅雨将軍信長」。山岳小説も良いが、これはまことに意表を衝かれた一篇と申せませう。

本書には他に8編の短編・中篇が収録されてゐます。いづれも「時代科学小説」(作者自身の命名)であります。
「鳥人伝」では、薄倖の主人公が最後に、かつて愛した女性に空を飛ぶ姿を見せる場面が切ない。
「算士秘伝」における、今でいふ学閥の馬鹿馬鹿しさは全く腹が立ちますな。
「灯明堂物語」の堂守役は、めまぐるしく変る政情に翻弄されます。頑張れ!と言ひたくなります。
「時の日」は、大化の改新を漏刻(古代の時計)をテエマに描きます。
「二十一万石の数学者」とは、久留米藩主の有馬頼徸(よりゆき)のこと。時の将軍吉宗から高い評価を得ますが...
「女人禁制」は、大奥女中同士の言ひ争ひから、お加根といふ女性が男装して女人禁制の富士山の頂上に登る話。封建時代の辛さ、愚かしさが伝はります。
「赤毛の司天台」の浪人、安間清重は下着の湿り具合で天候を予知してゐた(何日も同じ下着を穿き続けるのだつた!)が、赤毛の女性と結婚し、清潔な生活に馴染むと、予知能力が低下してしまつた。しかし...
最後の「隠密海を渡る」。絵島事件を扱つてゐますが、上役を信じ、立身出世の為忠実に役目を果たす主馬之助に昭和30年代のモーレツサラリーマンを感じます。全く世の中は理不尽だらけ、しかし最後に愛し愛される女性と一緒になれて良かつた。

新田次郎さんは、これらの「時代科学小説」を開拓したいと意気込んでゐたやうですが、当時は芳しい評判を得られなかつたさうで、結局その後は同系統の作品を書くことはなかつたとのことです。まことに残念。当時の時代小説読みには突飛な設定と考へられ、少し時代を先取りしすぎたのかも知れませんね。

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『唐沢俊一の雑学王』 P.28 「梅雨」のトリビア  雨の日はラブホテルが満員になるという。まあ、雨の日には観光地に 行ってもつまらないし、他にすることがないからとりあえず……というのが 理由だろうが...

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