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巨人の素顔 双葉山と力道山


巨人の素顔

巨人の素顔 双葉山と力道山
石井代蔵【著】
講談社(講談社文庫)刊
1985(昭和60)年1月発行


九州場所は横綱白鵬翔の全勝優勝といふ結果に終りました。
対する朝青龍明徳は11日目まで全勝を保つたものの、後半4連敗して力尽きた感じです。
両者の結びの一番、立合ひ直後は朝関が充分の体勢を作つたにもかかはらず、最後は白関に両廻しを与へ、裏返しにされ土俵に叩きつけられました。
自分の相撲を取れずに負けたのではなく、自分の得意な体勢になりながら勝てなかつたところに、朝関の危機を感じますね。さはさりながら、両横綱の激突にふさはしい良い一番であります。

それに比して大関同士の2番、酷い内容でした。
眼前でこの2番を見せられた解説の北の富士勝昭さんは、残る結びの一番に対してコメントを求められて、ほとんど悲鳴のやうに叫びました。「どちらが勝つてもいいから、とにかく良い相撲を見せてほしいですよ」
来場所は大関同士の対戦は初日から三日目までで終了させてしまひませうよ。

そして次代を担ふはずの若手力士は一体どうしたのか。
両横綱に対してあまりにも策がなさすぎますね。馬鹿正直に正面からぶつかり、さあ上手をどうぞ掴んでくださいといはんばかりの相撲つぷりであります。
力の差は歴然としてゐるのだから、まともにぶつかつても結果は知れてゐるではありませんか。工夫がないやね。

ま、さういふ下位力士に助けられてゐる面を割り引いて考へても、今年の白鵬関の活躍は特筆ものであります。
朝青龍関が年間84勝で最多勝を更新した時、この記録はもう破られないだらうと思つてゐたら、あつさり86勝の新記録を達成してしまつた。すごいねえ。

『巨人の素顔』はその白鵬関が尊敬する双葉山と、いま一人力道山の評伝であります。
双葉山篇は「狂気か天才か」と題され、引退後の璽光尊事件を中心に語られます。
「木鶏」を理想として相撲道に邁進した双葉山。その純粋な心に付込んだのが璽宇教だつたのでせう。
棋士の呉清源さんとともに、新興宗教の広告塔としてこれ以上ない存在といへませう。
力道山の方は「無国籍者の悲劇」といふタイトルで、その生涯が綴られます。
いふまでもなく、プロレスを日本に普及させた功労者であり、大スタアであります。現在でも信奉者は多いやうです。

双葉山は事件後立ち直り、協会に復帰して相撲協会の理事長にまでなりますが、力道山はビジネスに邁進し、結果ちんぴらに殺されてしまふ。日本中を熱狂させた英雄の最期としては、悲しすぎるものがあります。
双葉山のやうに、命を賭してでも救つてやりたいと考へる人物がゐなかつたこともありませう。
いづれにせよ、我我凡人には垣間見ることすら困難な英雄たちが、裏では実に人間臭い一面を持つてゐたといふことが再確認できます。
機会あれば一読されたし。

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