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博士の愛した数式


博士の愛した数式 (新潮文庫)博士の愛した数式 (新潮文庫)



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博士の愛した数式
小川洋子【著】
新潮社(新潮文庫)刊
2005(平成17)年12月発行


体調を悪くして、布団の中で大部分を読みました。寝床で読書をするとはかどるのはなぜでせうか。
今も臥せつてゐますが、一寸起きてPCに向つてゐます。病気をして初めて分かる健康のありがたさ。しかし全快するとけろりと忘れます。救ひ難い奴だと申せませう。

...この有名な小説についてはもう衆知のことでせうが、私は正真正銘今回が初読でございます。
数学者である「博士」は、17年前の交通事故により新たな記憶を積み上げることが出来なくなりました。1975年で記憶が停止してしまひ、その後は新たに覚えてもその記憶は80分しか保てないのであります。
80分といへば、映画1本ほどの時間もありません。比較的短い、昔のプログラムピクチャーでも90分前後ありますね。
新東宝映画は80分以下の作品が結構あつたな...といふくらゐのもの。
この80分ルールを設定したことで、この小説の成功は半分約束されたやうなものですね。ちょつとずるいよね、とも申せませう。

家政婦の「私」とその息子たる「ルート」が、博士との交流を深めれば深めるほど、悲しい結末が待つてゐるのではないか、と予想してしまふところです。「未亡人」のせりふ「義弟は、あなたを覚えることは一生できません」が分かつてゐるから。結末への期待と不安がない交ぜになつて、ページを捲る手も早くなるのでした。
登場人物はすべて固有名詞を廃してゐます。つまり、例へば「駒子」とか「時任謙作」とかいふ名を使はずに、固定したイメエヂを植ゑつけるのを拒否してゐます。普通小学生の息子は名前で呼ぶところを、博士の言を借りて「ルート」と呼ばせてゐるのは、意図的なものでせう。

そして成功要因のもう半分は、江夏投手(背番号)の登場ですね。私がプロ野球を見始めた頃は、江夏投手も田淵捕手もすでに肥満化が進んでゐて、タイガースは「阪神部屋」などと陰口を叩かれてゐたものです。
ま、それはそれとして、阪神時代の江夏の背番号28が完全数といふものださうです。その約数の和が一致するものをさう呼ぶらしい。即ち1+2+4+7+14=28。
ここに、数式が主人公といふ世にも珍しい小説の完成となります。ぴたりと決まる。美しい。
偏屈にならずに、評判になつた本も読んでみるといい、といふことですかな。

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